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東京地方裁判所 昭和29年(ワ)10017号 判決

原告 青柳健三 外一名

被告 帝国光学工業株式会社

主文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

一、請求の趣旨

「被告会社が昭和二九年五月一日を払込期日としてなした新株式四〇万株の発行はこれを無効とする。

訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決を求める。

二、請求の原因

(一)  原告らは、被告会社の株主である。

被告は、昭和二六年四月三〇日設立された資本の額二、〇〇〇万円、発行済株式の総数四〇万株、(一株の金額五〇円)の株式会社であるが、昭和二十九年五月一日を払込期日として一株の金額を五〇円とする額面新株式四〇万株を発行した。

(二)  しかし右新株の発行は、次のとおり、有効な取締役会の決議によらないで為されたものである。

(1)  被告会社備置の昭和二九年四月二一日附取締役会議事録によれば、同日午後二時被告会社の会議室で同会社の取締役会が開催され、取締役鈴木作太、同浜野道三郎、同佐伯清之助同小島正二の四名が出席し全員一致の意見を以て、

(イ) 一株の金額を五〇円とする額面新株式四〇万株を発行する。

(ロ) 発行価額を一株につき五〇円とする。

(ハ) 払込期日を昭和二九年五月一日とする。

旨の決議が為されたこととなつているが、その記載は虚偽であり、右取締役会が開催された事実はない。

(2)  仮に右取締役会が開かれたものとしても、その決議は無効である。

即ち、右取締役会の招集通知は、各取締役に対し発せられていないが、招集手続を経ぬことにつき取締役全員の同意は存せず、又当時における被告会社の取締役は、前記四名のほか、小畑忠良、佐伯貞次郎、武内裕之、梅岡敏次を加え総員八名であるから、四名のみの出席では取締役会の定足数たる過半数に達しておらない。従つて右取締役会の招集手続及び決議方法には瑕疵があり、その決議は無効である。

よつて原告等は被告に対し、右新株発行を無効とする旨の判決を求める。

三、請求の趣旨に対する答弁

主文第一、二項と同旨の判決を求める。

四、請求の原因に対する答弁

原告等主張の事実(一)は認める。同(二)のうち、主張のような内容の議事録の存すること及び当時における被告会社の取締役は、梅岡敏次を除く七名であることを認め、その余は否認する。

五、証拠〈省略〉

理由

原告は、被告会社の代表取締役が新株発行に関する有効な取締役会の決議を経ないで新株の発行をしたとして、その新株の発行を無効であると主張する。

しかし、この取締役会の決議は会社内部の意思決定に過ぎないから、いやしくも、対外的に会社を代表する権限ある代表取締役が新株を発行した以上、この点につき有効な取締役会の決議のないことを理由に右新株発行を無効とすることは許されないものといわなければならない。

けだし、

株式申込人としては、通常新株発行が取締役会の有効な決議に基くものかどうかはこれを知る由もないから、右のような内部的なかしの故に新株が無効となるとすれば著しく取引の安全を害することとなるからである。

更に、商法第二八〇条の九は払込又は現物出資の給付をした新株の引受人だけが払込期日より株主となる旨規定している。これは、必ずしも、取締役会の決定した新株の総数を全一体として有効又は無効とする立場をとらず、新株引受人各自の事情に従い、現実に払込又は現物出資の給付のなされた分につきその限度においてのみ新株の発行を有効とすることとし、授権資本制度の目的とする会社資金の機動的調達に便宜を計るものに外ならないのであるが、原告らの主張はこの制度の本旨にも反するものであつて到底認容することができない。

然らば、原告等の本訴請求は、その主張自体理由がないことに帰するから、これを失当として棄却するものとし、訴訟費用の負担につき民訴法第九三条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡部行男 竜川叡一 宍戸清七)

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